石牟礼道子の伝説「西南役伝説」 ― 2018/02/11
石牟礼道子さんが亡くなって思い出すのは、私の場合、「苦海浄土」ではなく、「西南役伝説」である。
九州各地の古老を訪ねて西南戦争について聞くという、他に類を見ない試みの本だ。
世に西南戦争に関する本は数多あるが、意識するまでもなく当然すべて士族の視点である。
私は2009年に洋泉社から復刊されたこの本(元は1980年刊行)を読んで、面白いとは思ったが、正直言って、一般民衆が西南の役をどうとらえたかなんて本にさしたる意義があるとは思えなかった。
なんというか奇書という言葉くらいしか浮かばないが、不思議な本だという読後感だった。
幕末維新の薩摩藩についてはかなりの時間を使って勉強してきた。
西郷隆盛について調べ、島津久光について調べ、西南戦争に従軍してのち鹿児島新聞を創立した野村忍助について調べ……。
そして、大河ドラマ「西郷どん」の開始。
頭の中が薩摩の歴史でぱんぱんに膨れ上がったとき、意識の転換が起こった。
なぜ薩摩士族史観の本をこんなに有り難がって読まなければならないのか、という疑問が抑えがたくなったのだ。
わが家の祖先は士族でもなく、大隅半島の百姓である。
「宮田」は神社の所有する田のことだろう。
すると、この「西南役伝説」が光り輝く。
ただし、民衆史観が素晴らしいなどとは言わない。
マルクス主義的発想は私の最も憎むところだ。
渡辺京二氏の行き届いた解説に深く共感する。
『西南役伝説』を貫くのは、底辺の民衆の眼を通じて戦争を無意味なものとする視点だと一応考えられなくもない。しかし、そのような民衆の視線による歴史の読みかえが本書のねらいだとする解釈は、決して『西南役伝説』の真価に関わるものではあるまい。なぜなら、西南戦争は民衆に迷惑ばかり及ぼす権力レベルの争いだといったありふれた理解は、民衆であろうとなかろうとわれわれが生きる世界について、稔りある認識をもたらすものではないからである。
本書には百姓の立場から侍を揶揄するような表現が多く見られる。しかしそこに読みとるべきなのは、自分たちの手に届かぬ権力の所為の一切をユーモア化する民衆の想像力であって、その民話的ユーモアに過大な反権力的意味を読みこむべきではあるまい。
非常に重要な視点だ。
石牟礼道子は反権力左翼に担がれそうなところがある。
しかしそうではなく、もっと豊饒なエネルギーを読み取るべきなのだ。
階級闘争なぞ糞食らえだ。
まずは水俣市深川の老人たちが登場する。
「わし共(どま)、西郷戦争ちゅうぞ」
「西郷戦争は、思えば世の中の展(ひら)くる始めになったなあ」
老人達は、西郷隆盛は城山では死ななかった、と信じていた。「知恵が天皇さんより一段上」であった西郷は、逃げのびて中国に渡る。日清・日露の役の大陸に参謀として出没し、日本軍の危難を救うのである。
「西郷どん」の今年こそ、再読したい本だ。

九州各地の古老を訪ねて西南戦争について聞くという、他に類を見ない試みの本だ。
世に西南戦争に関する本は数多あるが、意識するまでもなく当然すべて士族の視点である。
私は2009年に洋泉社から復刊されたこの本(元は1980年刊行)を読んで、面白いとは思ったが、正直言って、一般民衆が西南の役をどうとらえたかなんて本にさしたる意義があるとは思えなかった。
なんというか奇書という言葉くらいしか浮かばないが、不思議な本だという読後感だった。
幕末維新の薩摩藩についてはかなりの時間を使って勉強してきた。
西郷隆盛について調べ、島津久光について調べ、西南戦争に従軍してのち鹿児島新聞を創立した野村忍助について調べ……。
そして、大河ドラマ「西郷どん」の開始。
頭の中が薩摩の歴史でぱんぱんに膨れ上がったとき、意識の転換が起こった。
なぜ薩摩士族史観の本をこんなに有り難がって読まなければならないのか、という疑問が抑えがたくなったのだ。
わが家の祖先は士族でもなく、大隅半島の百姓である。
「宮田」は神社の所有する田のことだろう。
すると、この「西南役伝説」が光り輝く。
ただし、民衆史観が素晴らしいなどとは言わない。
マルクス主義的発想は私の最も憎むところだ。
渡辺京二氏の行き届いた解説に深く共感する。
『西南役伝説』を貫くのは、底辺の民衆の眼を通じて戦争を無意味なものとする視点だと一応考えられなくもない。しかし、そのような民衆の視線による歴史の読みかえが本書のねらいだとする解釈は、決して『西南役伝説』の真価に関わるものではあるまい。なぜなら、西南戦争は民衆に迷惑ばかり及ぼす権力レベルの争いだといったありふれた理解は、民衆であろうとなかろうとわれわれが生きる世界について、稔りある認識をもたらすものではないからである。
本書には百姓の立場から侍を揶揄するような表現が多く見られる。しかしそこに読みとるべきなのは、自分たちの手に届かぬ権力の所為の一切をユーモア化する民衆の想像力であって、その民話的ユーモアに過大な反権力的意味を読みこむべきではあるまい。
非常に重要な視点だ。
石牟礼道子は反権力左翼に担がれそうなところがある。
しかしそうではなく、もっと豊饒なエネルギーを読み取るべきなのだ。
階級闘争なぞ糞食らえだ。
まずは水俣市深川の老人たちが登場する。
「わし共(どま)、西郷戦争ちゅうぞ」
「西郷戦争は、思えば世の中の展(ひら)くる始めになったなあ」
老人達は、西郷隆盛は城山では死ななかった、と信じていた。「知恵が天皇さんより一段上」であった西郷は、逃げのびて中国に渡る。日清・日露の役の大陸に参謀として出没し、日本軍の危難を救うのである。
「西郷どん」の今年こそ、再読したい本だ。
わが意を得たり! 大東亜会議 ― 2018/02/11
きょうは建国記念日で、日本会議福岡県南支部主催の奉祝行事が久留米市の石橋文化ホールであった。
朝から雪で、やめようかとも思ったが、井上和彦氏の講演「封印された日本近現代史」を聴きたくて行った。
一番の収穫は、1月10日付本ブログ「東條英機宣誓供述書を読む」でも言及した「大東亜会議」について、氏が「最も大事な会議だ」と強調したこと。
昭和18年11月の同会議で決めた「大東亜宣言」を再掲しよう。
一、大東亜各国は協同して大東亜の安定を確保し道義に基く共存共栄の秩序を建設す
一、大東亜各国は相互に自主独立を尊重し互助敦睦の実を挙げ大東亜の親和を確立す
一、大東亜各国は相互に其の伝統を尊重し各民族の創造性を伸暢し大東亜の文化を昂揚す
一、大東亜各国は互恵の下緊密に提携し其の経済発展を図り大東亜の繁栄を増進す
一、大東亜各国は万邦との交誼を篤うし人種的差別を撤廃し普く文化を交流し進んで資源を開放し以て世界の進運に貢献す
「日本が世界で初めて人種差別撤廃を言った」
「今の国連憲章そのもの。これが軍国主義か!?」氏は叫んだ。
私自身が「東條英機宣誓供述書」から「大東亜政策」や「大東亜建設」の中身を知り、素晴らしい、崇高な理念だと感動した、正にその部分が日本の近現代史の最重要ポイントであると確認できたのはよかった。
井上氏は意外と話はうまくなかった。
保守系論客はケント・ギルバート、我那覇真子と聞いてきたが、大量に講演をこなす人たちはいずれもパソコンの画面を映して話をする(使い回しだね)。百田尚樹はどうだったかな。
あれなら私でも話せる。
朝から雪で、やめようかとも思ったが、井上和彦氏の講演「封印された日本近現代史」を聴きたくて行った。
一番の収穫は、1月10日付本ブログ「東條英機宣誓供述書を読む」でも言及した「大東亜会議」について、氏が「最も大事な会議だ」と強調したこと。
昭和18年11月の同会議で決めた「大東亜宣言」を再掲しよう。
一、大東亜各国は協同して大東亜の安定を確保し道義に基く共存共栄の秩序を建設す
一、大東亜各国は相互に自主独立を尊重し互助敦睦の実を挙げ大東亜の親和を確立す
一、大東亜各国は相互に其の伝統を尊重し各民族の創造性を伸暢し大東亜の文化を昂揚す
一、大東亜各国は互恵の下緊密に提携し其の経済発展を図り大東亜の繁栄を増進す
一、大東亜各国は万邦との交誼を篤うし人種的差別を撤廃し普く文化を交流し進んで資源を開放し以て世界の進運に貢献す
「日本が世界で初めて人種差別撤廃を言った」
「今の国連憲章そのもの。これが軍国主義か!?」氏は叫んだ。
私自身が「東條英機宣誓供述書」から「大東亜政策」や「大東亜建設」の中身を知り、素晴らしい、崇高な理念だと感動した、正にその部分が日本の近現代史の最重要ポイントであると確認できたのはよかった。
井上氏は意外と話はうまくなかった。
保守系論客はケント・ギルバート、我那覇真子と聞いてきたが、大量に講演をこなす人たちはいずれもパソコンの画面を映して話をする(使い回しだね)。百田尚樹はどうだったかな。
あれなら私でも話せる。
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