悪質でしかない「生きている兵隊」2019/10/18

朝日新聞がまた、石川達三の「生きている兵隊」を取り上げたそうだ。
今朝の産経新聞一面コラム「産経抄」にこうある。

「先月末、朝日新聞の天声人語が、作家の石川達三の『生きている兵隊』を取り上げて、この問題(注・検閲)を論じていた。日中戦争に従軍して書き、検閲を恐れて要所を伏せ字にせざるを得なかった作品である。」

まず、産経新聞にも誤りがある。
石川達三は〝従軍〟していない。

日本軍は中華民国の首都・南京を昭和12年12月13日に陥落した。
石川は翌13年1月8日、戦いの終わった南京に到着したのである。

同15日に上海に戻るまで、南京には正味7日間滞在した。20日に上海を発ち、23日に東京に戻った。

帰国後、『中央公論』3月号に発表するために一気に書き上げた『生きている兵隊』には、日本軍の南京攻略戦の残虐性をたっぷり盛り込んだ。
つまり、石川は南京攻略戦を実際に見聞したわけではなく、南京と上海での取材・伝聞・想像で書いたのである。

「産経抄」の続き。
「ただ石川が、戦前の言論統制の被害者と決めつけるのは早計だ。『言論統制』(佐藤卓己著)には、石川が雑誌に発表したこんな文章が引用されている。『極端に言ふならば私は、小説といふものがすべて国家の宣伝機関となり政府のお先棒をかつぐことになつても構はないと思ふ』」

これは、石川が戦中の1943年、『文藝』12月号に発表した文章だが、つまり、石川は政治的プロパガンダ小説を肯定していたのだ。

実際、石川は死去する少し前の昭和60(1985)年、インタビューに答えて、南京大虐殺について「いっぺんも見ていない」と否定している。
つまり、『生きている兵隊』は〝でっちあげ〟の非常に悪質で無責任な小説なのだ。
今も中公文庫で出ているので、読んでもらえば分かるが、実に醜悪な小説である。
第一回の芥川賞受賞作家とは思えない、グロ小説だ。とてもまともには読めない。日本軍に悪意があって書いたとしか思えず、発禁処分になったのは当然だ。
朝日の記者も、産経の記者も読んでから書いているのだろうか。
「検閲」以前の問題である。

しかも、これが、日本の歴史上最悪のスパイである尾崎秀実(朝日新聞記者)によって中国に広まるのである。
朝日新聞記者である河原理子が書いた『戦争と検閲――石川達三を読み直す』(岩波新書、2015年)が期せずしてその事実を浮き彫りにしている。

本ブログ9/26日付「中沢けいに反論する」にも書いたが、朝日新聞や朝日系の作家が石川の『生きている兵隊』をまるで「まともな作品」であるかのように持ち上げるのはもうやめてほしい。