ダークツーリズム2021/08/29

ダークツーリズムといって、歴史上の「負の遺産」も積極的に見ようという動きがあるが、いいことだ。

これなどはぴったりだろう。若い人たちでいっぱいになるといい。

今日のひとこと2021/08/29

源氏物語「榊」與謝野晶子訳から

源氏は東宮の御勉学などのことについて奏上をしたのちに退出して行く時皇太后の兄である藤大納言の息子の頭の弁という、得意の絶頂にいる若い男は、妹の女御のいる麗景殿に行く途中で源氏を見かけて、「白虹(はくこう)日を貫けり、太子■おぢたり」と漢書の太子丹が刺客を秦王に放った時、その天象を見て不成功を恐れたという章句をあてつけにゆるやかに口ずさんだ。源氏はきまり悪く思ったがとがめる必要もなくそのまま素知らぬふうで行ってしまったのであった。

同じく源氏物語「賢木」円地文子訳はより詳しい

弘徽殿の大后の御兄、藤大納言の子の頭の弁というのが、今の世に時めくはなやかな若人で、何の遠慮もないのであろう、妹の麗景殿のほうへ行く途中で、大将の君のお供の者が忍びやかに前駆(さき)を追うのを見て、しばらく立ちどまって、
「白虹日を貫けり。太子畏ぢたり」
と大そうゆるやかに史記の一節を口ずさんでいる。君はその気取った当てつけがましさを聞いていられないようにお思いになったが、おもてだって咎められることでもない。この言葉は、燕の太子丹が秦の始皇を殺そうとして、荊軻(けいか)を刺客として秦に送った時、白い虹が太陽を貫く天象を見て、不吉な結果を予感したという故事を言ったもので、暗に源氏の君が兄帝に対して怪しからぬ心を抱いているらしいと史記の言葉に寄せて諷したのである。大后の御機嫌はこの頃恐ろしいほど悪くて、煩わしい噂ばかりお聞きになるので、頭の弁のような大后の近親の者が露に自分を批難しているらしいのも、自然お耳に入りながら、わざと素知らぬ顔をつくっていられた。

~それぞれ角川文庫、新潮文庫


このややこしい場面を、大和和紀『あさきゆめみし』は見事に1ページで表現しているのだが、それは置いておいて。
この「白虹日を貫けり」という言葉で朝日新聞は事件を起こしたことがある。

大正7(1918)年8月、米騒動に関する大阪朝日新聞の記事中に、次の一節があった。

金甌無欠の誇りを持った我大日本帝国は今や恐ろしい最後の裁判(さばき)の日に近づいてゐるのではなからうか。「白虹日を貫けり」と昔の人が呟いた不吉な兆が黙々として肉叉(フォーク)を動かしてゐる人々の頭に電(いなづま)のように閃く

大日本帝国への最後の審判として、皇帝の殺害を示唆したのだから問題になるのは当然だ。
大阪府警は当該夕刊を発売禁止にし、執筆した記者と編集人を新聞紙法違反(安寧秩序紊乱の罪)で大阪区裁に告発した。区裁は二人に禁固2カ月の実刑判決を下した。