櫻井よしこさん、NHKを鋭く批判2017/12/30

以下の文章は、櫻井よしこさんのオフィシャルサイトでも公開されていますが、保存必至の内容なので備忘録として引用させてもらいます。

「 強欲NHK、650億の蓄財を説明せよ 」

『週刊新潮』 2017年12月28日号
日本ルネッサンス 第784回

テレビを設置したらなぜ、NHKと契約し受信料を払わなければならないのか。NHKを見たくない人にまで契約を強要するのは、契約の自由を侵す憲法違反ではないのか。
 
こうした問いに最高裁判所は12月6日、合憲の判断を下した。その判決のおかしさは、「受信設備を設置した者は、協会(NHK)とその放送の受信についての契約をしなければならない」という放送法第64条1項には沿っているが、その他の重要事項に全く配慮していないことだ。
 
NHKは放送法第4条に定められた➀政治的公平性、➁事実は歪曲しない、➂対立意見のある事柄は多くの角度から論点を明らかにする、などについては全く守っていない。「公共放送」にあるまじき極端な偏向報道に最高裁は全く触れなかった。
 
金満体質になってしまったNHKが公共放送とは無関係の投資活動に多額の資金を投入していることも、最高裁は全く考慮しなかった。
 
最高裁がNHKへの受信料支払いを「法的義務」としたことから、裁判を起こせばNHKは必ず勝訴し、受信料取り立てが可能になる事態が生まれた。受信料徴収率はすでに約80%で、NHKの一人勝ち体制が強化されるだろう。加計学園報道や種々の歴史ドキュメンタリー番組で明らかな偏向報道をするNHKに、受信料という事実上の税金をこれまで以上に注入してよいはずがない。
 
そこで、私は、インターネット配信の「言論テレビ」で12月15日、特別番組を組んで同問題を取り上げた。その議論の中から、偏向報道が半端ではないNHKの、これまた半端ではない彼らの金満体質を紹介する。経済評論家の上念司氏がNHKの財務諸表を分析し、今年度の中間決算を基に報告した。

「NHKには1兆円超、正確には1兆1162億円の資産があります。その金持ち振りに驚きますが、中身を分析するともっと驚きます」
 
1兆円余の資産の内、一見してNHKには不要だと思われるのが有価証券、長期保有有価証券、特定資産である。それぞれ2461億円、946億円、1707億円で、計5114億円だ。ひとつずつ見ていこう。

受信料を国民に戻すべき
 
まず、1番目の有価証券だ。この多くは譲渡性預金、要は定期預金だ。なぜこんなに定期預金をするのか。資金に余裕があるからだとの上念氏の説明はわかり易い。
 
次は長期保有有価証券だ。「これは特殊法人の発行する債券と地方債です。NHK自体が特殊法人ですが、他の特殊法人のスポンサーになっている。どこにそんな必要があるのか、わからない」と、上念氏。
 
長期保有有価証券946億円の中に105億円の非政府保証債が含まれている。政府系特殊法人が発行する債券を105億円も購入している。

「NHKが財政投融資みたいなことをやっているわけです」と上念氏は説明したが、再び同じ疑問を抱く。NHKがそんなことをする必然性はあるのか、と。
 
この長期保有有価証券には他にもよくわからないものが入っている。たとえば事業債の購入費591億円だ。この事業債は主に電力会社が発行している証券だが、やはり同じ疑問を抱く。国民の受信料で、なぜ、電力会社の債券を買うのか、と。これもお金が余っているからであろう。
 
次はNHKにとって必要がないと思われる3番目の項目だ。1707億円に上る特定資産である。上念氏の説明を聞いてもっと驚いた。

「実は、特定資産の中にも、前述の非政府保証債と事業債が入っているのです。各々794億円と640億円です。すでに説明した長期保有有価証券の中にも同じ名目で入っていましたから、両方に分散されているものを足すと、非政府保証債が約900億円、事業債が約1231億円。凄い額です」
 
非政府保証債が政府系特殊法人の債券であること、事業債が主として電力会社の債券であることはすでに述べた。国民のための放送事業に必要だとして徴収する受信料を、他の特殊法人や電力会社のために使う理由をNHKは説明すべきだ。
 
そんな余裕があれば、NHKは受信料を国民に戻すべきだ。或いは前会長の籾井勝人氏が主張したように受信料を大幅値下げすべきだ。そこでNHKの懐にはどれだけの資金があるのか、上念氏が分析した。

「単体決算で見ると、純資産は7442億円、連結決算では8340億円、名だたる上場企業に引けをとらない凄い実績です。優良企業のパナソニックの純資産が9814億円、富士通が9098億円、NHKは両社には及ばないが7442億円。マツダの5132億円よりも富士重工の4962億円よりもはるかに巨額の純資産をNHKは持っています」

高給取りの集団
 
こんな金余りのNHKであるから、当然、職員への利益配分も大きい。平成28年度決算ではNHKの給与総額は1109億3094万円だった。NHK職員の総数、1万273人で割ると、1人当たり平均年収は1079万8300円だ。他方、民間給与実態統計調査によると、日本人の1年間に得た平均給与は421万円である。
 
単純平均値だが、日本国民の平均給与の2.5倍をNHK職員は得ている。「皆さまのNHK」は高給取りの集団である。これはフェアか。民間企業が競争に晒されコストを削減し、新製品や技術を開発し、努力して利益を上げるのに対して、NHKは法律をバックに受信料を徴収するだけだ。おまけに凄まじい偏向報道で事実を歪曲し、放送法第4条は守らない。そんなNHKにこんな給料格差は許せない。

「キャッシュフローを見ると、半期で508億円もキャッシュが残っています。1年では1000億円以上です。うち、半期で327億円、1年で650億円強が有価証券取得に回されています。先にも言いましたが、この多くは定期預金なのです。お金が余っているからこれだけ貯め込んでいる。そこで言いたい――NHKさま、お金が余っているなら、国民にお返し下さい」
 
上念氏の呼びかけに、私たちは爆笑したのだが、笑って済む話ではない。金余りのNHKは余った分を国民に返すべきだ。最高裁判断を笠に着て、受信料徴収に励む強欲NHKであり続けてはならない。そしてNHKは国民に説明せよ。なぜ毎年650億円も私たちの受信料から抜き取って、有価証券を買うのか。この問いにきちんと答えよ。
 
このように抗議をしても、恐らくNHKの強欲と偏向報道は改まるまい。そうした姿勢はすでに彼らの体質になっている。それでも私たちはNHKの現状を黙って受け入れるわけにはいかない。一日も早く、スクランブル放送や電波オークションなど新制度を導入し、NHKの強欲と偏向の厚い壁を破っていきたい。
(以上)

西郷隆盛を一次史料で浮き彫りにする2017/12/30


今月出たばかりの川道麟太郎「西郷隆盛」(ちくま新書)。
「手紙で読むその実像」との副題に、「やられた!」と思った。
西郷隆盛に関する本はゴマンとあるが、この手がまだ残っていたかという意味で、だ。

著者は、西郷や関係者が当時書いた手紙や日記という一次史料をもとにして西郷隆盛を年代順にとらえ直していく。

二次史料(歴史書や人物伝など)を全く使わないわけではないが、極力避ける。

西郷が間違って語られる最大の原因は、歴史家が一次史料と二次史料をないまぜ(チャンポン)にして使うことにある、と考えるからだ。

このブログで海音寺潮五郎の博覧強記を書いてきたが、言われてみれば確かに、海音寺も一次史料と二次史料をチャンポンにして使っている。

一次史料はいわば生の声だから重要なのは素人にもわかる。
ところが、歴史書は先人の業績を大切にするから、意外と二次史料の検証に重点がかかる。

それを排して一次史料を頼みにして人物をとらえ直してみると、何が起こるか。
小気味いいほど、通説や有力説がどんどん覆されていくのだ。
一次史料とは「コロンブスの卵」だったのか!「打ち出の小槌」といってもいい。

驚くべきことに著者は「大西郷全集」や「西郷隆盛全集」といった基礎資料にまで疑いの目を向ける。
よほど眼光紙背に徹しなければ、こんなことは書けない。

明治6年の征韓論争で、西郷は征韓ではなく平和的交渉を考えていたという毛利敏彦説も否定される。

一番面白かったのは、司馬遼太郎批判だ。
しかも、私も先日取り上げた「翔ぶが如く」だ。

著者は、大久保利通と岩倉具視が宮中工作の「秘策」で、西郷の朝鮮使節派遣決定をひっくり返す過程を証明する。
西郷は二人を「君側の奸」として憎みながら去って行ったはずだという。

ところが、司馬は西郷が鹿児島に帰る前に大久保を訪ねて暇乞いをしたと書いているのだ。
それは西郷が「ただ大久保と岩倉をのみ信頼し、この両人が政府にあるかぎり、妙な国家になることはあるまいとおもっていた」からだという。

著者は「司馬は作家であるからフィクションを書くことに問題はない」としながらも、「こういう敷衍の仕方は、やはり好ましくない。事実を歪め、人々から史や現実を直視する目を奪う」と痛烈に批判する。

私も書いたが、司馬の描き方は思いつきみたいな軽いものが多い。
例えば、徳川慶喜を歴代将軍の中で最も優秀だったと絶賛しているが、歴史を追ってもとてもそうは思えない。

司馬のような思いつきで創作を混ぜ込む適当な小説をどうして好む人が多いのか、不思議で仕方がない。百害あって一利なし、時間の無駄でしかないと思うのだが。

本書は新書版で500ページ余り。読みごたえがあった。新たなスタンダードになる予感。