史伝とは何か2017/12/04


海音寺潮五郎「武将列伝」(文春文庫)全五巻を読み終わった!
面白かった。
特に最終巻の江戸篇の西郷隆盛、勝海舟が面白かった。やっぱり自分には幕末が合うんだな~

これらは小説ではなく、史伝だということだが、海音寺はその違いについて最終巻あとがきに書いている。

「人物の性格を四捨五入して端的に割切って、すべてをその線に沿って書いて行くのは小説の手法である。こんな人物は現実の世界ではとうてい生きて行けないほど偏頗な性格なのだが、小説の世界では最も生き生きとして来る。わかりやすくもある。」

これに対して、

「史伝では、人物の四捨五入はしない。史伝の世界は現実世界の引きうつしである。現実世界に生きて行ける人間が描かれなければならない。人間は四捨五入の出来る部分で特色があらわれ、出来ない部分で生きているのである。」

さらに海音寺潮五郎「西郷と大久保と久光」(朝日文庫)巻末の、磯貝勝太郎氏の解説で補うと、「小説では作者としての意見や批判を述べるには、常に間接的であるのに対して、史伝の場合には」「人物の評価や事件、その他について、作者が自己の意見を直接的に表現し得る」。
海音寺潮五郎の史伝は、幸田露伴の史伝と共通し、
①英雄の人物評論をすることによって、その心情を描出する
②史料の比較考証による人物叙述
③逸話を尊重している
といった特色があるという。
なるほど、納得できる。