プロローグ 心の叫びを聞いてほしい② ― 2017/08/22
佐賀市の小説教室に提出したプロットはこうだ――。
タイトルは「失墜」。
南国日日新聞社会部の遊軍記者、江頭健一(34)は、薩摩半島南端のM市に取材車で急行している。運転しているのは事件記者の満尾明(26)だ。
同市の村中消防長の乗ったセスナが、薩摩硫黄島飛行場で墜落したのだ。
M市には市営の小さな空港がある。村中は、沖合の硫黄島にある飛行場と結ぶチャーター便を利用していた。
不可思議な事故だった。
パイロットも村中も無事だったのだが、村中は墜落後に現場から立ち去り、行方不明になっているというのだ。パイロットの証言によると、村中が操縦を妨害して機は墜落したのだという。
村中は二か月後の市長選に立候補を表明している。二日後には決起集会を開く予定だ。それなのにどうして自殺行為を図ったのか。
複雑な背景があるのではないか、と江頭が応援に駆り出された。江頭はこの三月までM支局長だったのだ。村中とはウマが合って、親しくしていた。
行ってみると、まだ赴任三か月の脇本・新支局長は既にがっちりと今別府市長と信頼関係を結んでいた。脇本は如才ない男だ。江頭が支局に出ている間に中途採用で入社したので、引き継ぎ時に初めて顔を合わせた。
江頭は苦々しい思いになる。昨春、支局二年目の終わりに、編集局長から「本社へ帰るか」と打診されたのである。今別府市長が大学時代の友人である広末・新聞社社長に支局長を代えてほしいと訴えたのだという。
江頭は異動を断り、残り一年を歯を食いしばって耐えた。そんな無念さが胸に渦巻く。
空港に駆け付け、次いでM警察署を訪ねる。
塗木署長に聞くと、パイロットの言い分通り、村中が操縦を妨害して揉み合いになったため、機が墜落したということで事故を処理しようとしている。村中は行方不明であり、警察は村中にまだ一言も事情聴取していない。パイロットの操縦ミスかもしれないではないか。江頭は疑問を持つ。
江頭は、いったん社に上がる満尾と別れ、旧知の人に会うためにM市内のビジネスホテルに泊まる。村中が発見されるまでは取材を続けるのだ。
その夜、今別府市長と脇本支局長が同じ業界紙の出身であることを知る。江頭はきな臭いものを感じる。
すべてが市長当選のために結託しているのではないか。
まさか、パイロットはわざと機を墜落させ、村中を殺そうとした?
江頭は翌日、パイロットに会うが、村中が突然つかみかかってきたという証言を繰り返すばかりだ。江頭にはM市を引き揚げるよう、社会部から指示が出る。
翌々日、村中は硫黄島の湾内から遺体で発見される。
航行中の航空機を墜落させたとして、「航空の危険を生じさせる行為等の処罰に関する法律」違反の疑いで、被疑者死亡のまま書類送検される。
ミステリーぽく脚色しているが、ほとんど事実を基にしている。
タイトルは「失墜」。
南国日日新聞社会部の遊軍記者、江頭健一(34)は、薩摩半島南端のM市に取材車で急行している。運転しているのは事件記者の満尾明(26)だ。
同市の村中消防長の乗ったセスナが、薩摩硫黄島飛行場で墜落したのだ。
M市には市営の小さな空港がある。村中は、沖合の硫黄島にある飛行場と結ぶチャーター便を利用していた。
不可思議な事故だった。
パイロットも村中も無事だったのだが、村中は墜落後に現場から立ち去り、行方不明になっているというのだ。パイロットの証言によると、村中が操縦を妨害して機は墜落したのだという。
村中は二か月後の市長選に立候補を表明している。二日後には決起集会を開く予定だ。それなのにどうして自殺行為を図ったのか。
複雑な背景があるのではないか、と江頭が応援に駆り出された。江頭はこの三月までM支局長だったのだ。村中とはウマが合って、親しくしていた。
行ってみると、まだ赴任三か月の脇本・新支局長は既にがっちりと今別府市長と信頼関係を結んでいた。脇本は如才ない男だ。江頭が支局に出ている間に中途採用で入社したので、引き継ぎ時に初めて顔を合わせた。
江頭は苦々しい思いになる。昨春、支局二年目の終わりに、編集局長から「本社へ帰るか」と打診されたのである。今別府市長が大学時代の友人である広末・新聞社社長に支局長を代えてほしいと訴えたのだという。
江頭は異動を断り、残り一年を歯を食いしばって耐えた。そんな無念さが胸に渦巻く。
空港に駆け付け、次いでM警察署を訪ねる。
塗木署長に聞くと、パイロットの言い分通り、村中が操縦を妨害して揉み合いになったため、機が墜落したということで事故を処理しようとしている。村中は行方不明であり、警察は村中にまだ一言も事情聴取していない。パイロットの操縦ミスかもしれないではないか。江頭は疑問を持つ。
江頭は、いったん社に上がる満尾と別れ、旧知の人に会うためにM市内のビジネスホテルに泊まる。村中が発見されるまでは取材を続けるのだ。
その夜、今別府市長と脇本支局長が同じ業界紙の出身であることを知る。江頭はきな臭いものを感じる。
すべてが市長当選のために結託しているのではないか。
まさか、パイロットはわざと機を墜落させ、村中を殺そうとした?
江頭は翌日、パイロットに会うが、村中が突然つかみかかってきたという証言を繰り返すばかりだ。江頭にはM市を引き揚げるよう、社会部から指示が出る。
翌々日、村中は硫黄島の湾内から遺体で発見される。
航行中の航空機を墜落させたとして、「航空の危険を生じさせる行為等の処罰に関する法律」違反の疑いで、被疑者死亡のまま書類送検される。
ミステリーぽく脚色しているが、ほとんど事実を基にしている。
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